2019年 08月 12日
「ある世捨て人の物語」
最近、響いた本。
アメリカ、メイン州の森で27年間ひとりで暮らした男の話。
自給自足、ではなく、近くの別荘地から食料や日用品を盗んで調達していた、という。 ただし、高級なものや、持ち主が困るであろうものには手をつけないという彼なりのルールを守って。 極寒の森でも、存在を知られないために火を使わずに過ごし、生死を彷徨うこともあったという。 27年後に盗みに入ったところで捕まり、そこから、完全なる孤独を目指した本人の希望は絶たれ、彼にとっての苦悩の日々が始まる。
男が逮捕された直後から、男に嫌がられながらも、執拗に取材を重ね、ある種の心の通じ合う瞬間も感じながら、この本を書き上げたジャーナリスト、マイケル・フィンケル。古今東西の孤独を愛した人物の言葉や、精神疾患や、さまざまな角度からこの出来事を描いていて、単なる一人の人間の物語以上に深い本になっていると感じた。そう、「人間嫌いな泥棒の、森の生活顛末記」ではない、ある種の人々の根源にある(いや、誰にでもある?) 願望を見せられたようだった。
そして、27年間という、とてつもなく長い期間誰とも接触せずに、厳しい条件を生き抜いたその力に圧倒されたことと、しかし、そういう人物が生き延びるために選んだ手段が、別荘地にあるキャンディや冷凍食品や着替えやテントを盗むという方法だったということのアンバランスになんとも引き込まれてしまった。
そして、何よりも、ここまで人間社会に馴染めなかった男が、逮捕され森へ戻れなくなった時の絶望感はいかばかりか、その後どう生きていくのか、それを考えると読者も苦しくなる。
男の強い希望で、著者はその後の生活を取材出来ていないようだが、なんらかの形で、男が今、安らぎの中で暮らせているように願わずにはいられない。
by maxmomdad
| 2019-08-12 09:26
| Books
|
Comments(0)